緻密にして大胆な彼(わらプレvol.161)
こんばんは、桑山です。
昨日、一昨日とパルテノン多摩で公演でした。
お医者さんからの指示とはいえ、セリフがほぼない舞台はなかなかにして寂しいもんです。
他の人のところに皺寄せが行っちゃってて、かなり申し訳ない気持ちでした。
でも自分がやっていた役などを他の人がやっているのを見ると、色んな発見があって、それはそれで面白くて勉強になりますけど。
さて、前回の続きの「お見舞いの話」です。
実は昨日、途中まで書いていたのですが、公演に突入してしまい、書きかけのままになってしまいました。
なので、今日改めて書いてます(笑)
看護師さんや家族の「悪意ないトラップ」に翻弄されていたのですが、ついに大本命ともいえるあの人が満を持しての登場です。
翌日に退院を控えた夕方の午後4時過ぎ、僕は待合スペースで漫画を読んでいました。
もう他にお見舞いの人が来ることなど完全に意識の外でした。
漫画に夢中になっていると、大きなスーツケースを引いて僕の横に座る人影が。
何気なく顔を上げると、彼がいました。
「え!?」
思わず出そうになる言葉を必死で飲み込みます。
まずは軽くファースト・トラップです。
そう、先輩の松下アキラさんです。
いや、嬉しいんですよ。
嬉しいんですが……明日の朝、退院だよ?
しかも「喋れないのでお見舞いはご遠慮下さい」と事前にお断りしておいたのに。
ホワイドボードを部屋に置いてきてしまった僕は、持ち歩いていたノートに走り書き。
「あ、ありがとうございます。来てくださったんですね?」
アキラさんは、にこやかな笑顔で応えます。
僕はアキラさんが引いてきたスーツケースを指差して
「営業(フル公演とは別の単発のお仕事)の帰りですか?」
アキラさんはなおも沈黙のまま、にこやかな笑顔です。
……もしかしたら病院内なので静かにしてるのかな?
沈黙の時間が続きます。
……ま、元々無口な方ですしね。
ついにしびれを切らして、もう一度アキラさんのスーツケースを指差し、ノートに書いてある「営業の帰りですか?」を指さします。
するとアキラさん、にこやかに頷き……
ジェスチャーを始めます。
「いや、アキラさんは喋ってくださいよ!!」
おもわず大声でツッコミそうになり、必死に耐える。
ノートに走り書きするもジェスチャーは続く。
しかもジェスチャーゲームのようなわかりやすいジェスチャーではなく、妙に演劇チックで微妙な表情や仕草で心の動きや状況を表現しようとする。
「わかりにくいよっ!!!」
もう何度、喉仏くらいまで言葉がこみあげてきた事か。
10分間の悪戦苦闘の末、今日が浅草の寄席に行く途中だということを突き止める。
「くわの病室に戻ろう」
というジェスチャーを何とか解読し、病室に戻ると、なんとベッドの上に紙袋に入ったお見舞い品が!!!
そのそばに僕が看護師さんとの会話に使っているホワイトボードにメッセージも書いてある。
「俺の宝物の本や!! 笑いのバイブルや!!」
え!?
あのアキラさんが笑いのバイブルにしてる本!?
それって最高の贈り物じゃないですか!!!!
急いで紙袋を開けると出てきたのは『沈黙の艦隊』全16巻。
これ、政治色の強いマンガですよね?
笑える要素、ないですよね???
これをまたイチイチ、ホワイトボードに書いて尋ねるのが面倒くさい事、この上ない。
すると、アキラさんはその答えをホワイトボードに書いてくる。
「だぁ~かぁ~ら~、アキラさんは喋って下さいって!!」
何度も声に出そうとして必死にこらえる葛藤。
しかも沈黙の艦隊全16巻、すげー重たいし。
暇つぶしに読んでくれっていうには、明日、退院だし。
全てが緻密に計算された大胆過ぎる悪戯。
こんなに変化球で確信犯の愉快犯、あなたならどう対処します?
いや、僕だって他人事ならとっても楽しめるんですよ(笑)
他人事なら……。