落ち着きのない大人が 手あたり次第にチャレンジします!!

色と音を意識した過去に書いた短編小説(わらプレvol.57.5)

2020/03/30
 
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桑山 元
社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」に所属しています。 お笑い芸人の傍ら、「わかりやすい伝え方」を極めるべく、セールスライター、スピーチライター、講師、ライトノベル執筆に挑戦中! 最近は「遅ればせながら」御朱印集めにハマりつつあります。

ちなみに小説家の高橋フミアキ先生のところで「色や音を入れなさい」と教わった後、書いた短編小説がありますので、号外としてご紹介します。

一昨年の夏に出された課題です。
・1250文字以内
・年収100万円の生活
この2つをクリアして、短編小説を書いてくること。

僕が書いたのは「定子と拓也」というお話です。
少ない文字数ですが、なんとか色や音を姑息に入れ込もうとしているところ(笑)に注目して読んでみて下さい。

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『定子と拓也』

電話のベルが鳴った。

定子は眺めていた新聞記事を丁寧に置くと、受話器を上げた。

「あ、ばあちゃん。俺」

「おや、拓也かい? そろそろ電話が来るような気がしてたんだよ」

「ばあちゃん、実は大変なことになっちゃって……」

「そんな気がしていたよ」
定子は受話器を握ったまま、うんうんと頷き、拓也の涙声を聞いていた。

「電車の中に会社の小切手が入った鞄を忘れてきちゃって……鞄は出てきたんだけど……小切手は、小切手は……」

拓也のすすり泣きは続いた。

定子は夏祭りを思い出していた。

4歳の拓也はばあちゃんと一緒に夏祭りに出かけた。
太鼓の音を遠くに聞きながら、ぎゅっと手を掴み、二人で顔を見合わせて笑った。

拓也は初めて自分でお金を払って、夜店でりんご飴を買った。
りんご飴を誇らしげに定子に見せた。

頭上に上がった花火を見上げた瞬間、拓也の手からりんご飴が滑り落ちた。

「あ……」
短く呟いた拓也は、砂にまみれたりんご飴を眺めていた。
ただ立ち尽くし、眺めていた。

チリーン。

どこかで風鈴が鳴った。

拓也はふいに顔を上げた。
両の眼にみるみる涙が盛り上がってきた。

「りんご飴が……りんご飴が……」
拓也はすすり泣いた。

定子はうんうんと頷いた。

「大丈夫、大丈夫。ばあちゃんがいるから。ばあちゃんがなんとかしてあげるから」

チリーン。

庭先で風鈴が鳴った。

すすり泣きを包み込むように定子は言った。

「大丈夫、大丈夫。ばあちゃんがいるから。ばあちゃんがなんとかしてあげるから」

拓也のすすり泣きは小さくなっていった。

「小切手を明後日までに決済しなくちゃいけないんだ。でも、俺、お金がなくて……」

「いくらなんだい?」

「さ、300万なんだ……」

定子は言葉に詰まった。
耳の後ろから汗がつつーっと流れ落ちた。

その汗は猛暑でも、エアコンを使っていないからではなかった。

1ヶ月あたり8万円の年金生活。
定子にとっては、それでも充分だった。

一日一食。
茶碗一杯の白米、ちりめんじゃこと醤油。
水出しの麦茶。

もう17年も、それで貫いている。
粗食健康法を実践しているわけではなかった。
単に欲求がなかった。

自然、お金は貯まった。
貯まり方はたかがしれていたが、50万ほど蓄えがあった。
しかし300万には程遠い。

「いや、全部ばあちゃんに出してもらおうなんて思ってないよ」

「拓也は昔から優しいね。ばあちゃん、50万くらいしかなくてね。ごめんね、ごめんね」
郵便局の小包で送れば明日には拓也の元に届く。

「なんだか振り込め詐欺みたいだね」
定子はそう言って拓也と共に笑った。

郵便局から帰ってきた定子はまた新聞記事に目を落とした。

今までに何度も読み返した17年前の新聞記事。

―― 6歳男児、溺死。祖母が目を離した隙に池に転落か? ――

今日からまたちょっとずつ蓄えなければならない。
また次に拓也が困ったときの為に。

「大丈夫、大丈夫。ばあちゃんがいるから」

定子は新聞記事に語りかけた。

チリーン。

庭先でまた風鈴が鳴った。

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色と音の力、なんとなく感じていただけました?
テンション低い話ですみません。

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桑山 元
社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」に所属しています。 お笑い芸人の傍ら、「わかりやすい伝え方」を極めるべく、セールスライター、スピーチライター、講師、ライトノベル執筆に挑戦中! 最近は「遅ればせながら」御朱印集めにハマりつつあります。

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