落ち着きのない大人が 手あたり次第にチャレンジします!!

メガネの話 featuring 加藤(わらプレvol.89)

2020/03/30
 
この記事を書いている人 - WRITER -
社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」に所属しています。 お笑い芸人の傍ら、「わかりやすい伝え方」を極めるべく、セールスライター、スピーチライター、講師、ライトノベル執筆に挑戦中! 最近は「遅ればせながら」御朱印集めにハマりつつあります。

「加藤の話」へのリクエストを予想よりも多く頂いたので、加藤とのことを書いた話をアップします。
と言っても、メインの話は加藤のことではなく、メガネの話なんですけどね。

これは3年前に初めて文章教室に通った時に、最初に出された課題です。
このメルマガでも紹介した「連鎖式構成法」を習った時でした。
このメルマガで紹介したのは、確かお正月特別企画の「お悩み相談」で「会話が続きません」のご相談の時だったと記憶しています。

この連鎖式構成法とは、長い文章が書けない人、文章がスムーズに流れていかない人のためのテクニックとして教えて頂きました。
一つの文章をまず書いて、次の文章は前の文章をより詳しく補足説明する。
その繰り返しによって文章がスラスラ書けるし、読んでいる方もスラスラ読める、というものです。

この時、与えられた課題は次の3つでした。
1.「今日は〇〇な一日だった」という書き出しで書くこと
2.1人称を「私は」「僕は」と書かずに、あえて名前で3人称のように書くこと。
(これによって自分を客観的に捉えやすくなると共に、小説を書く基礎になるそうです)
3.一文の長さは長くても40文字くらいまで。出来るだけ短文で書くこと。

偶然、前の日に加藤と飲んでいて、午後7時から始める文章教室に行く前までの実際の出来事です。

ちなみに文章教室の課題をそのままコピペしているものなので、特にオチもなく、楽しめないかもしれませんので悪しからず。

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

今日は少し進歩のあった一日だった。

朝、目を覚ました桑山は、まずメガネをなくしたことを思い出した。
オークリーというブランドのメガネだ。46,000円。
桑山が持っている中では群を抜いて高いメガネだ。
価格もさることながら、もっと重要なのは、それが去年の誕生日に妻がプレゼントしてくれたものだということだ。

どこでなくした?
桑山はもやがかかった頭で、おぼろげな記憶を手繰り寄せた。
寝起きであることと昨夜の酒が残っているため、頭がうまく回らない。
ビールをジョッキで3杯、焼酎を350ml。
20代の頃はなんてことのなかった酒量が44歳の桑山にはこたえた。
久しぶりの加藤との飲み会で、つい自制を忘れた。

加藤は気のいい奴だ。
大学の同級生で付き合いはもう26年。
大学から現在も友達付き合いをしているのは、この加藤1人だけだ。
桑山がサラリーマンを辞めた時も、30歳でプー太郎をしていた時も、お笑い芸人になった時もずっと変わらぬ付き合いをしてくれた。
さらに気がいいだけじゃなく、酒の勧め方がとにかく上手い。
桑山の話を楽しそうに聞き、ときに頷き、ときにツッコミを入れ、気が付くと酒がなみなみと注がれている。

電車に乗ったところまでは覚えている。
高田馬場から大久保駅まで一駅だけ山手線を乗るはずだった。
たった一駅、2分の間に眠り込んだようだ。
起きたのは池袋駅だった。時計を見ると3時間が経過していた。
延々と山手線をぐるぐる回り、終電の時間になっていた。
あわてて電車を降り、改札を通る。もう電車は終わっているのでタクシーを拾う。

桑山はそこで気が付いた。
いつもと周囲の景色が違う。
酒に酔っているせいではなかった。メガネをかけていないのだ。
ポケットを探してみる。ない。
バッグの中を探してみる。ない。
どうやら落としたらしい。
桑山は深くため息をついた。
「またか……」

加藤と飲むとロクなことがない。
前回飲んだ時はiPhone6PLUSをなくした。
買って2か月半。仕方なく新規購入して8万円の出費。
仕事ですぐに北海道へ行かなければならなかったので、見つかるまで待てなかった。
128Gを使っていたのだが店頭には在庫がなく16Gを購入した。
とても使い勝手が悪かった。
その後、ボロボロになった状態で使っていた128Gが見つかった。
修理に4万円。妻に呆れられた。

それだけではなかった。
さらにその前に加藤と飲んだ時は、酔っぱらって駅の階段から転落し、全治3週間の左足首ねん挫。
1週間は松葉杖での生活で部屋の中で動き回ることすら大変だった。
何も出来ずに家でテレビを観て、ご飯を食べ、寝ているだけ。
妻は苦々しくため息をついていた。

さらに遡る事、半年。
桑山は飲みすぎて寝過ごした。
新宿駅までは起きていた。
次の大久保駅で降りるはずが気づけば日野駅。
どこだ?
初めて聞く駅の名前。トラックのメーカーでしか聞いたことがない。
桑山が慌てて電車を飛び降り駅舎を出ると、駅のシャッターが閉まる音を背後で聞いた。
桑山は20分かけてタクシーを拾った。
大久保までと行き先を告げると運転手が驚いた。
荻窪まででも1万円はかかるという。大久保までなら1万5千円ほどか。
桑山は財布の中を覗いた。
所持金は3千円と小銭。
仕方なく、夜中の2時に桑山は妻に電話した。
4度の留守電を経て5度目に妻が電話に出たので事情を話した。
「私だって1万円ちょっとしかないわよ」妻の声は明らかに不機嫌だった。

そして今度はメガネだ。
しかも妻からのプレゼントだ。
桑山に残された選択肢は2つ。
妻に知られる前に同じものを買うか、なんとかして見つけ出すかだ。
小遣い制の桑山にとって46,000円など蓄えがあろうはずがない。
そもそもそんな計画的に貯蓄が出来る性格なら、何度も飲みすぎて失敗することはないだろう。
とすれば、必然的に選択肢は1つしか残らない。

桑山はインターネットで調べ始めた。
JR東日本の遺失物係の電話番号だ。
どうやら東京駅にあるようだ。ならば直接行ったほうが早い。
次の仕事場への移動中に東京駅を経由するからだ。

東京駅に着くとインフォメーションコーナーをまっすぐに目指す。
遺失物係の場所を訊いた。
若くて美人のお姉さんが親切に教えてくれた。地図ももらった。
しかし、もう一度、念のために道順を訊いた。
桑山は極度の方向音痴だからだ。
正直、不安だった。
遺失物係は東京駅の一番外れにあった。

地図を片手に遺失物係を目指す。
15分歩いた。まだ着かない。
道は合っているのだろうか?
何度も地図を見返すが、そもそも自分がどこにいるのか、桑山はわからなかった。
次第に不安が大きくなっていった。
はたして道は合っているのか?
メガネは見つかるのだろうか?
見つからなかったとしたら、どうなるのだろうか?
来年からはもうプレゼントがもらえないかもしれない。
それなら、まだいい方だ。
二度と口をきいてもらえないかもしれない。
ただでさえ会話は減ってきている。
それよりももっとひどい事態が待っているかもしれない。

桑山は不安に押しつぶされる寸前だった。
救いを求めるように近くの人に地図を見せ、現在地を訊く。
もう2本先の道を左に曲がれば遺失物係だそうだ。
やや遠回りしたものの近くまで来ていたようだった。

桑山はようやく遺失物係にたどり着いた。
2人待ち。
40代の男性と体格のいい50代くらいのご婦人。
男性は息子が落とした財布を捜していた。
問題は金額ではなく、息子が気に入っているその財布だと語っていた。
桑山にはその気持ちが痛いほどわかった。
男はひととおり説明すると丁寧に頭を下げ去って行った。
婦人はしばらくまくし立てていたが、一息つくとうなだれて帰っていった。

桑山の番が来た。
メガネの特徴、無くしたと思われる日時、状況。
伝え漏れがないよう、過剰なまでに細かく必死に伝えた。
先ほどのご婦人の気持ちが桑山は今になってわかった。
白髪頭の痩せた駅員さんがパソコンを操作する。
ずり落ちた老眼鏡の奥で目をしばしばさせながら検索をかけている。
「これかなぁ」と呟くと、桑山が言葉を発する前に「違うな」と短く言い切った。
駅員は「んーー」と低くうなっていた。
「これかなぁ。オーエーケーエルイー」
桑山は頭の中でアルファベットを並べなおした。
OAKLE……。オークリー!!
「それです」桑山は叫んでいた。
駅員はちらとこっちを伺い「23:30。池袋駅のホーム」と呟いた。
場所もぴったりである。
「どうすればいいですか? どこにいけばいいですか?」

桑山は明日、池袋駅に取りに行くことにした。
駅員は「まだそうと決まった訳ではないからね」と念を押した。
「はい、わかりました」と答えた桑山は堅く縮こまった心が柔らかにほどけていくのを感じた。
あれほど長く不安に感じた遺失物係までの道の風景が全く違って見えた。
こんなにも明るく、こんなにもカラフルだったのか。
東京駅の改札まで全く迷くことなく確かな足取りで歩きながら、桑山は思った。
ダメだと思っても、あがいてみるもんだ。
諦めるのはそれからでも遅くない。
きっと今までならすぐに諦めていただろう。
妻からのプレゼントでなければ、こんなに粘らなかったかもしれない。
そうか、全てにおいて、そうなんだな。
今度から「ダメに決まってる」と感じても、もう少しだけ粘ってみよう。
桑山はほんの少し自分が進歩しているのを感じた。

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

この課題をやる前までは原稿用紙2~3枚、つまり1,000文字くらいまで文章を書くのがやっとでした。
その後、6,000文字とか2万文字くらいまで書けるようになりました。

この課題以降、色々と短篇小説を書いて練習してみたのですが、先生が「あれが一番良かった」と褒めるのは、一番最初に描いたこの課題(笑)。
課題なのに。
ただの実話なのに。
小説でもなく、エッセイですらない感じで書いたのに。

「やっぱ才能ないのかな?」
そう感じていますが「もう少しだけ粘ってみよう」と思ってます。

この記事を書いている人 - WRITER -
社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」に所属しています。 お笑い芸人の傍ら、「わかりやすい伝え方」を極めるべく、セールスライター、スピーチライター、講師、ライトノベル執筆に挑戦中! 最近は「遅ればせながら」御朱印集めにハマりつつあります。

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© 桑山元、遅ればせながら チャレンジ中!! , 2017 All Rights Reserved.