何故、あの先輩はニュースを見ないのか?(わらプレvol.82)
3/23~3/24に行われるザ・ニュースペーパーの新ネタライブの稽古が続いております。
新しいものを生み出すのは、本当に大変です。
先輩メンバーも四苦八苦しながらネタを書いてきます。
よく勘違いされるのですが、ザ・ニュースペーパーのネタは脚本家さんが書いているわけではありません。
メンバーそれぞれがネタを書いてきて、それを持ち寄り、採用になるか、ならないのかを稽古場で判断します。
ニュースペーパーは9人グループという大所帯なので、劇団的に捉えられることも多いのですが、まぎれもなくコント集団、つまりグループの「お笑い芸人」です。
劇団だと脚本家さんが脚本を書き、演出家さんの指示に従って、役者さんが演技していくという形なのだろうと思います。
ところが、お笑い芸人は基本的に全部自分でやらなければなりません。
ネタも自分で作るし、自分で演じます。
もちろん演出家さんはいます。
全体の流れやバランス、アドバイスを演出家さんや他の先輩達からも頂きます。
しかし、基本は「自分」です。
ニュースペーパーに入ったばかりの頃に前社長に言われました。
「舞台に出たかったら面白いネタを書いて来い」
ニュースペーパーでは、ネタを書いてきた人にキャスティング権があります。
色々な事情でキャスティング変更になることもありますが、それらはむしろ例外です。
基本的に、ネタは書いてきた人のものなのです。
書かれた台本がそのまま採用になるケースもありますし、それを土台として皆で話し合ったり実際にエチュード的に動きながら作り上げていく場合もあります。
その中で圧倒的な採用率を誇る先輩がいます。
トランプ役、プーチン役、舛添元都知事役や小泉純一郎役などの松下アキラさんです。
アキラさんの台本は、ほぼ手直しなしで採用になります。
その台本の世界観、そして舞台上でのパフォーマンスは本当に素晴らしいの一言に尽きます。
ただ、この先輩、大のイタズラ好きなのです。
しれーっと、とんでもないイタズラを仕掛けていたりします。
つい最近されたイタズラとしては……(続きは最後)
(今回のあらすじ)
・松下アキラさんのネタ作り
・ニュースを見ないことの意味
・大事なのは幹を見ること
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
先ほどの話に出た私の先輩、松下アキラさんはいつも完成度の高い台本を書いてきます。
以前、アキラさんにそのコツを訊いたことがあります。
事細かに色々と教えて頂いたのですが、そのうちの一つに
「ニュースを見ない」
というものがありました。
これを聞いた時には、正直、いつものイタズラでからかっているのだろうと思いました。
もしくは企業秘密なのでそう易々とは教えられないよ、とはぐらかしているのかと。
ところがどうも、そうではないようなのです。
アキラさんが言うには、
「みんな(他のメンバー)は、うち(ザ・ニュースペーパー)のお客さんはニュースに詳しい人ばかりが来ていると思っているんだけど、俺はそうは思ってない。
みんながみんな、ニュースに詳しいわけじゃないと思うんだ。
そう考えると、熱心にニュースを見て情報を集めると、違う方向に行っちゃうんじゃないかな?
だから、ネタを探すためにニュースを真剣に見よう、とは思わないで、普通に生活してて入ってくるニュースをネタにする。
そこで情報が不足してたら、改めて新聞やらネットやらで調べる」
だそうです。
これ、最初に聞いたときは「またまたぁ~、嘘ばっかり!!」って思ってました。
それまでの僕のやり方は、気になるニュース・今話題になっているニュースを片っ端からノートにメモして、情報を集めてましたから。
ルーズリーフを使ったり、名刺大の情報カードに書き溜めたりして、それを見返しながらネタを考えてました。
もっとも、それで採用率が低かった(というか、ほとんど採用されなかった)し、自分で見ても「面白くねぇ~なぁ~」っていうものばかりだったので訊きに行ったわけですが……。
いまいち信じられなかったんですが、他に打つ手がない以上、やってみるしか仕方がなかったのです。
で、やってみた結果は……
確かにネタの採用率が上がりました。
自分で見ても、以前よりは面白さが上がっていました。
何故だ?
何故、以前の方法ではダメだったんだ?
何故、一見やる気がないような方法の方が出来が良いのか?
気になると分析しなくては気が済みません。
色々考えた結果、3つの理由があるのではないかと思いました。
1.情報を集め過ぎるとそこに囚われる。
2.集めた情報を全て盛り込もうとしてしまうため、ごちゃごちゃして、何が言いたいのかわからなくなる
3.自分が知っていることは他人も知っていると無意識に思ってしまうため、ネタが細かい情報になる
仮に、映画のパロディを作ろうとしていると想像してみて下さい。
通常であれば、映画本編を観て、その象徴的なシーンについてパロディにしたくなると思います。
例えば「君の名は。」
象徴的なシーンとしては
・朝、起きてみると自分以外の身体(女性)になっているので、夢なのか確かめるために自分の胸を揉む
・ばぁちゃんに組み紐作りを習う
・巫女として奉納の舞を舞って、口噛み酒を作る
・えぐれた高原での出会い
・ばぁちゃんが顔を覗き込みながら「あんた、夢を見とるな」
などなど、数え上げたらキリがありません。
で、こういう象徴的なシーンからパロディを作ろうとします。
これが今までの僕のやり方。
そして、これは確実に失敗します。
何故か?
ターゲットが狭過ぎるからです。
「君の名は。」ほどの大ヒットでも、全員が観ているわけではありません。
1人で何回も観る人がいる一方、観ていない人もかなりの数、います。
正確な統計を取ったわけではないのですが、体感的に言うと、観た人は全体の3~4人に1人くらいの割合じゃないでしょうか?
老若男女合わせると、もっと低いパーセンテージかもしれません。
つまり、大多数は「観ていない人」なわけです。
さらに、観た人の中でも、そのシーンをどれだけ鮮明に覚えているかは甚だ疑問です。
では、アキラさん方式ならどうなるか?
これ、直接アキラさんに訊いたわけではなく、僕が勝手に応用してるだけなのですが……
テレビCMで流れている「予告編」のシーンだけを使います。
・綺麗な彗星を見ている
・「俺達、私達……入れ替わってる!?」
・♪君の前前前世から~
・♪運命とか未来だとか~
こんなところを拾っていくのです。
どうです?
予告編の方がピンと来る気がしませんか?
これをニュースのコントでやるならば、
・真剣にニュースを見ていない状況で(普通に日常生活を送っていて)
・ザっと手ですくって、それでも手のひらに残ったワードを使ってコントを作る
そうすると割と共感が得られます。
さらに、細かい情報を知らないので「こういうことかな?」とテキトーに考えたことが、とんでもなく的外れだったりします。
でも結果的にみると、それが「アイデアの飛躍」になっていたりするわけです。
細かい情報を集め過ぎると、そこを足場にするために、逆に「事実」に縛られて飛び立つことが出来なくなるのです。
さて、長々と皆さんには関係ない「コントの作り方のコツ」をお話してきたわけですが、これは何を言いたかったかというと
【枝葉に囚われると幹を見失う】
という非常に基本的なことを言いたかったのです。
例えば、授業で「これは言おう」という細かい情報を羅列し過ぎると、聞いてる生徒は「飽きます」
セミナーやプレゼンでも同じで、細かい情報が多いと、言いたいことが「ぼやけます」
結果、「で、何? ……ん~、よくわからなかったけど、面倒臭そうだということだけはわかった」となります。
では、どうするか?
【言いたいことは1個か3個にする】
不思議なことに2個じゃダメなんです。1個か3個の方が座りがいいんです。
でも、授業だと伝えなきゃいけない情報が多いけど?
そういう時は……
主の情報を1個、それに関連する情報を3個話したら、一度区切って、全然違う「無駄話」をする。
そしてまた、新たに主の情報を1個……と、やっていく。
そうすることによって、コンパクトにまとまったエピソードが幾つかのパッケージになって1つの授業になるので、聞いてる方も理解しやすいし、思い出しやすいのです。
何故、今回はそんなことに熱を入れて話したか?
勘の良い方なら薄々気付いてるかもしれませんが……
提出したネタ、アキラさん方式の基本を忘れて情報を詰め込み過ぎた結果、惨敗だったからです(笑)
この基本、意外と大切です。
是非、お試しあれ!!
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
さて、そのアキラさんが最近僕にしてきたイタズラとは……
知らないうちにこのメルマガの読者になっていて、しれっとメールに返信してきたんです。
「確かにオノマトペは大事ですね。これからは気をつけます」
とか書いてきんです。
しかも、稽古場で稽古中に!!
誰にも悟られることなく赤面していた僕を、アキラさんは少し離れた自分の席から眺めて、口元が微妙に緩んでいました。
そうなんです。
このメルマガ、アキラさんも読んでいるらしいのです。(僕には誰が読んでいるのかはわからないシステムなんです)
今回、冒頭部分を大幅に割いて、やたら先輩を褒めている理由がこれでご納得頂けたことと思います(笑)